2015年
著者:日髙 杏子
所属:多摩美術大学

  • 社会文化
  • マーケティング

要旨

 本研究は色彩文化とデザインの視座から、日本(関東と札幌)とアメリカにおける牛乳の一般的なパッケージ・カートン(通称牛乳パック)の配色とコミュニケーションデザインを、カラーチャートによって比較するものである。本研究目的は、牛乳パッケージの色彩、素材、デザイン、サイズ、そして牛乳の摂取欲と購買欲を高める品質のこだわりの文化差を明確にするところにある。
 日本では、乳業メーカーは白色、青色、緑色と赤色を牛乳パッケージの配色に使うことが多い。本研究では、この現象が果たして日本だけなのか、それともアメリカでも起きているのかを検証する。カラーチャートに基づいた比較では、白色は日本でもアメリカでも両方使われている。
 しかしながら、アメリカの乳業メーカーによる黄色(日本ではほとんど使われない)の多用によって、配色が異なって見える。さらに、アメリカの牛乳パッケージは乳脂肪率ごとに、赤色、緑色、青色で分類することが一般的である。日本の場合、単民族国家で識字率が高いため、文字情報で牛乳を選択させるが、反対にアメリカは多民族国家で文字がなくても情報判断できる方向にこころがけている。
 パッケージのサイズでは、日本はリットル式単位を用い、アメリカではクォートとガロン式単位を使う。いいかえると、アメリカ在住者たちは日本に比べ2倍ないし4倍の単位を牛乳の量を測るために使っており、この単位に応じてパッケージのサイズも大きく、1人あたりの年間消費量は、アメリカは日本の約2.4倍となっている。牛乳パッケージサイズと消費量の増大に伴い、紙パックでは2リットル以上を支えられないため、アメリカではプラスチック容器が70%を占めるが、日本では85%(おそらく2016年現在は90%以上)が紙容器である。他には、日本独自のバリアフリーデザインとして、成分無調整牛乳のパッケージの上部に切り欠き加工をほどこし、視覚障碍者や高齢者への配慮がなされている。多民族社会であるアメリカは、アフリカ系やアジア系人種に多い乳糖不耐症への配慮として、ラクトースフリー乳の選択肢が広い。
 最後に、牛乳の摂取欲と購買欲を高める品質として、日本は産地と味覚の形容詞という心理的・感情的側面にこだわり、アメリカは乳脂肪率や強化栄養素、有機であるか否か、飼料の種類(牧草か飼料か)という科学的側面にこだわって牛乳を選択することが判った。
 配色、デザイン、容器素材、サイズ、こだわりというさまざまな要素から、日本とアメリカの日常生活レベルでの牛乳に関する社会文化の顕著な違いを観察できた。このような各種差の日々積み重ねによって、育った国による造形感覚(色彩・デザイン・サイズ感覚・こだわり)の乖離が広がるのではないかと考えられる。
※平成27年度「乳の社会文化」学術研究
キーワード:
牛乳パック配色デザインこだわり

2016年12月6日