2009年
著者:井越敬司
所属:東海大学農学部

  • 健康科学
  • 免疫調節・がん

要約

チーズの機能性を、抗腫瘍活性の視点から、ヒト前骨髄性白血病細胞であるHL-60細胞を用い、チーズ中のガン細胞増殖抑制とその成分の検索を目的として研究した。12種類の各種市販チーズ(モッツアレラ、カマンベール、ブリー、モンタニャ-ル、ポンレベック、ブルー、ダナブルー、ゴーダ、グリエール、エメンタール、エダム、パメザンチーズ)を凍結乾燥後、メタノール可溶性画分を調製し、その活性について調べた。その結果、非熟成チーズや乳酸菌熟成チーズではほとんど活性は認められず、白カビチーズ(カマンベール、ブリー)、青カビチーズ(ブルー、ダナブルー)およびウオッシュチーズ(モンタナール、ポンレベック)において高い増殖抑制活性が認められた。また、活性はチーズの熟成率(水溶性窒素/全窒素)と高い相関性(r=0.943)を示した。細胞増殖抑制をアポトーシスの視点、すなわちDNAのヌクレオソーム単位での断片化を電気泳動で調べた結果、活性の認められたチーズにおいてDNAのラダー化が検出された。従って、チーズによるガン細胞増殖抑制はアポトーシスによる細胞死であることが示された。次いで、熟度の異なるブルーチーズを用いて調べた結果、熟成の進んだチーズにおいてガン細胞増殖抑制活性が高く、またアポトーシス誘導におけるDNAのヌクレオソーム単位での断片化が検出された。従って、ガン細胞増殖抑制成分はチーズ熟成中に生成する成分が関与するものと考えられた。
3カ月熟成ブルーチーズを材料に、ガン細胞増殖抑制をもたらす成分を分離・精製しその構造について調べた。ブルーチーズの凍結乾燥物から得られたメタノール可溶性画分からヘキサン抽出、ODSカラムによる分離後、1H-NMRにて精製物質の構造について調べた。その結果、脂肪酸であることが推定された。また、ガスクロマトグラフィーにて脂肪酸を特定した結果、ガン細胞増殖抑制成分はパルミチン酸、オレイン酸およびミリスチン酸であることが明らかにされた。市販のこれら脂肪酸の細胞増殖抑制活性とアポトーシス誘導能について調べた結果、いずれの脂肪酸においてもガン細胞増殖抑制とアポトーシス誘導が認められた。各チーズのパルミチン酸とオレイン酸の合計量と細胞増殖抑制活性の相関性について調べた結果、これら脂肪酸の合計量とガン細胞増殖抑制活性には正の相関関係(r=0.8939)が認められた。従って、チーズのガン細胞増殖抑制成分はパルミチン酸とオレイン酸であることが明らかとなった。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p000001mnub.html
キーワード:
チーズ熟成機能性ガン細胞増殖抑制

2015年9月18日