2009年
著者:春日規克
所属:愛知教育大学教育学部創造科学系

  • 健康科学
  • その他

要旨

本研究では、ミルクタンパク摂取の有無による運動性筋損傷と修復への影響を筋核、サテライトセルの筋形成制御因子から調べた。
実験は、Fischer344系ラットの長指伸筋とヒラメ筋を用いた。ラットは生後5週齢に通常食(対照)群とミルクタンパク食群に分けた。対照群の食餌飼料中の粗タンパク質24.2%は、脱脂大豆、トウモロコシ、きな粉、魚肉、コーングルテンミールで構成された。また、ミルクタンパク食群の粗タンパク質24.2%の内、10%がカゼイン、10%がホエイ、残り4.2%は対照群のタンパク組成で構成された。
損傷モデルは、小動物用トレッドミルを用いた下り走による伸張性収縮とした。対照群、ミルクタンパク食群ともに生後8週齢の時点で3日間のトレッドミル下り走(初期速度15m/min、最終速度28m/min,時間120分間、傾斜角度-16度)を行った。下り走後は前と同様にそれぞれの群に通常食またはミルクタンパク食を与え、回復実験まで飼育した。下り走最終日より、1、3、5、7日間の回復期間をおいて、収縮機能、組織切片HE染色による損傷量の変化、免疫組織染色法による筋核・サテライトセルの様相、mRNAの定量分析を行った。
対照群に対してトレッドミル下り走後を調べた結果、最大強縮張力は下り走3日後に20%減少し、7日後にはほぼ回復した。この下り走3日後の筋横断像(H&E染色、免疫染色)には、筋損傷を示す細胞の膨潤やマクロファージの浸潤が観られたが、対照群とミルクタンパク食群間に顕著な違いは認められなかった。一方、下り走後1日目から7日目に至るまでに、損傷筋において筋核及びサテライトセルに筋形成制御因子であるMyoD及びmyogeninの発現が検出され、検出量は対照群に比べミルクタンパク食群により多く観察された。また、RT-PCR法を用いたMyoDとmyogeninへの転写因子mRNA発現量の測定結果においても、対照群に比べミルクタンパク食群のMyoD、myogenin発現が高まっていた。さらに、対照群に比べミルクタンパク食群に下り走1日後から7日後における Ki67陽性反応を示すサテライトセル数が多く観察された。
ラットを用いた下り走により、下肢骨格筋に対して筋損傷を起こし、その損傷程度と回復過程に対するミルクタンパク食の摂取の影響を検討した結果、ミルクタンパクの継続的な摂食が損傷量を抑える効果は観られなかった。しかし、再生期において筋核及びサテライトセルに筋形成制御因子をより多く発現し、またサテライトセルの増殖反応を強める傾向が見られたことから、ミルクタンパク食の摂取が筋修復に有効に働く可能性が示唆された。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p000001mnub.html

2015年9月18日