2008年
著者:松本恵
所属:北海道大学創成科学共同研究機構・明治乳業寄附研究部門

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

要約

[目的]
乳製品を日常的に摂取することは、疫学調査で抗肥満効果があると報告されている。本研究では牛乳と肥満の関係を明らかにするために、牛乳を毎日の食事の前に飲用することによって、糖代謝に影響を与えるか実験動物を用いて検討した。
[実験方法]
F344ラットのオス3週令24匹を、毎日、明期の8時間絶食させ、飼料給餌直前に牛乳または疑似乳(マルトース、卵白、ラード、ミネラルで調製)を 30mL/kg投与した。試験飼育6週目に飼料摂取後の血糖値の経時変化を飼料摂取から4時間後まで尾静脈採血して測定し、さらに経口糖付加試験(Oral Glucose Tolerance Tests) も行った。また、空腹時に尾採血した血液を用いて、血中中性脂肪とフルクトサミン濃度を測定した。試験飼育7週目に解剖し、消化管粘膜の糖輸送担体のmRNA発現量を測定した。さらに、盲腸内容物を採取し、内容物中有機酸量をHPLCを用いて分析し、微生物叢をT-RFLP法を用いて分析した。
[結果と考察]
最終体重、エネルギー摂取量、飼料効率、各種臓器重量に、牛乳と疑似乳飲用による大きな変化は見られなかった。しかし、飼料摂取前に牛乳を投与することによって、疑似乳群よりも飼料摂取後60分の血糖値の上昇を有意に抑制した。また、OGTTにおいても、牛乳群は疑似乳群と比較してグルコース投与後15分の血糖値と血中インスリン濃度の上昇を有意に抑制した。血中フルクトサミン濃度も牛乳群で有意に低値を示した。このことから、牛乳を継続的に食事前に摂取することは、インスリン感受性を改善する効果があることが示唆された。
この牛乳の効果のメカニズムとして、消化管粘膜と盲腸内容物を分析した結果、消化管粘膜のGLUT2のmRNAの発現量は牛乳を投与することによって、十二指腸で有意に低値を示した。盲腸内容物中の総短鎖脂肪酸量は牛乳群で有意に高値を示し、とくにプロピオン酸が高かった。盲腸内菌叢は疑似乳群と牛乳群で明らかに変化し、とくにプロピオン酸生成菌が牛乳群で上昇していることが明らかとなった。このことから、牛乳のインスリン感受性改善効果は継続的に牛乳を飲用することによって、消化管糖輸送担体の発現量が変化し、また、大腸での発酵が変化することが関係している可能性が示唆された。
[結論]
牛乳を継続的に長期間、食餌の前に飲用することによって、インスリン感受性が改善されることが明らかとなった。そのメカニズムは十二指腸の糖輸送担体のGLUT2発現量が減少したことと、腸内細菌層が変化し、盲腸内プロピオン酸濃度が上昇したことが関係していることが示唆された。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p000001ahym.html
キーワード:
牛乳インスリン感受性食後血糖値経口糖付加試験

2015年9月18日