2008年
著者:太田博明
所属:東京女子医科大学産婦人科学教室

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

要約

骨密度は思春期から若年期に増加し、一定期間一定値を保った後、閉経を起点として急速な減少を示すことが知られており、その結果、骨粗鬆症が発症する。骨粗鬆症の罹患後に発生する骨折には年齢や既存骨折とともに骨密度が強く影響するため、薬物治療による介入が行なわれている。骨粗鬆症そのものを発症予防するためには、若年期に高い骨密度を獲得しておくことが重要である。特に、若年期における骨密度はライフスタイルに影響されるため、適切な栄養素を摂取することや、適度な身体活動量を維持することが重要であり、近年それらの介入効果も検証されている。一方で骨密度の家族間の相関は46-62%あるといわれ、その大部分が遺伝的に規定されているとの報告もあるが、わが国ではそれらの影響度を評価した報告はない。
我々は、骨量の獲得期にある思春期の日本人の女子生徒とその母親(387ペア)を対象とするコホートを構築し横断調査を実施した。対象の年齢、腰椎骨密度(BMD)、出生時・初経の情報、身長、体重およびライフスタイルを調査した。BMD、身長、体重は年齢を調整するため、SD値を用いた。女子生徒の平均年齢は14.6±1.8歳、母の平均年齢は46.1±4.0歳であり、女子生徒のうち、初経の未発来者は49例(12.7%)であった。母子聞の相関解析において、初経前の対象ではBMD-SD、身長-SD、ピタミンD、Kの摂取量が有意に相関した(p<0.05)。一方で初経後の対象ではBMD-SD、出生時体重、初経年齢、身長-SD、体重-SD. およびライフスタイルのうち食習慣および運動習慣のすべての項目が母子間で有意に相関した(p<0.05)。女子生徒のBMD-SDは、初経前の対象では自身の身長-SD、体重-SDと有意に相関した。しかし、初経後の対象では、自身の初経年齢、身長-SD、体重-SDおよび運動習慣のすべての項目が有意な相闘を示した(p<0.05)。有意な相闘が認められた因子を用いて女子生徒のBMD-SDに対する影響因子を探索するために、ステップワイズ法による多変量解析を実施した。その結果、初経前の女子生徒のBMD-SDには母親のBMD-SD(R2=0.069、p=0.033)と自身の身長-SD(R^2=0.199、P<0.001)が独立して影響した(モデルR^2=0.341)。初経後のBMD-SDには、母のBMD-SD(R^2=0.074、p<0.001)、自身の初経年齢(R^2=0.018、p=0.002)、身長-SD(R^2= 0.023、p<0.001)、体重-SD(R^2= 0.082、p<0.001)、運動の強さ(R^2=0.011、p<0.015)が独立して影響することが確認された。上記モデル全体でのR^2は0.368であった。
今回の検討で、初経前後で腰椎BMDへの関与因子が異なる可能性が確認された。また母親の腰椎BMDは子どもの腰椎BMDと遺伝的に相関性があり、初経後ではこれらに加え、自身の初経年齢、体重や運動が影響する可能性が示唆された。以上より、本研究では対象者の栄養環境は充足下にあったので、初経後においては母親の腰椎BMDと本人の初経年齢を指標とし、体重とライフスタイルでは食習慣の管理よりも運動の強さを管理することでより高い腰椎BMDが獲得できる可能性があると考えられた。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p000001ahym.html 
キーワード:
bone mineral densitylifestylenutrition intakeexercise

2015年9月18日