2007年
著者:大室弘美
所属:武蔵野大学薬学部及び薬学研究所

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

要約

栄養管理が行われている老人保健施設において、当該施設の通常の食事に牛乳(1日1回約200mL)を摂取した群(牛乳群)と麦茶又はジュース(1日1回約200mL)を摂取した対照群を比較することにより、牛乳の高齢者の健康増進効果を検討した。
茨城県稲敷郡の老人保健施設入所者のうち35名(開始時の人数:男性12名、女性23名。平均年齢:80.8±9.52歳)を対象とし、介入期間75日で実施した。介入開始時点での牛乳群は14名(うち男性5名)、対照群は21名(うち男性7名)であった。介入後30日目から対照群8名(うち男性3名)を牛乳群にスイッチした(以下、「スイッチ群」という。)。このため、牛乳の飲周期間は、牛乳群及びスイッチ群でそれぞれ75日及び45日であった。
牛乳の健康増進効果の客観的な指標として、皮膚の状態、臨床検査値、体重及びBMI等の値を用い、介入前と介入後の値を牛乳群、スイッチ群及び対照群で比較した。また、排便の状態(回数、性状、臭い等)やその他の介護職員による観察事項等も評価指標とした。
主な結果は、以下のとおりであった。
(1) 臨床検査値について(介入前及び介入後30日に実施。ただし、血液採取への同意が得られた対象者のみについて実施)
検査項目は、生化学一般(14項目)、CRP、末梢血一般及びピタミンB12であった。牛乳の30日間の継続飲用の結果、血清総たんぱく質及びアルブミン量の改善傾向、並びにBUNの低下が認められた。血清総タンパク質及びアルブミン量の改善傾向は、症例数を増やすことにより、有意差が明らかになると考えられる。
(2) 体重及びBMI直について(介入前、介入後30日及び介入終了時に測定)
介入前及び介入終了時(介入後75日)ともにそれぞれの牛乳群と対照群聞には、体重及びBMI値に有意な差はなかった。介入前と介入後の体重の平均値の差を検定したところ、対照群、牛乳30日間飲用群及び45日間飲用群(スイッチ群)では有意差がみられず、牛乳75日間継続飲用の牛乳群においてのみ有意な差が見られた。BMI値についても同様の結果であった。
(3) 皮膚の状態について(介入前、介入後30日及び介入終了時に実施。ただし、皮膚の測定に同意した対象者のみ実施)
対象者の顔面の皮膚の角質水分量経表皮水分蒸散量、皮脂量、ハリ・たるみ、メラニン量、角質細胞面積(減少はターンオーバーが速くなったことを意味する)並びにキメ等の検査項目について測定した。
介入前の牛乳群と対照群において、各項目の検査値に有意差は見られなかった。介入後30日では介入前と比べ、牛乳群のみ皮脂量の有意な増加、シミ部分のメラニン量の減少傾向並びに角質細胞面積の減少傾向が認められた。介入後30日から介入終了時までの45日間の変化を牛乳群、スイッチ群及び対照群で比較したところ、スイッチ群及び牛乳群で角質水分量の有意な増加、肌色部分のメラニン量の有意な減少、角質細胞面積の減少傾向がみられた。さらに、スイッチ群ではシミ部分のメラニン量の減少傾向がみられ、キメの改善傾向も他群に比べ大きい
傾向がみられた。
(4) 排便及び睡眠の状態について
対象者は2名(牛乳群及び対照群で各1名)を除き、下剤を毎日又は適宜服用していた。介入期間中に下剤の服用回数が減った対象者(介入期間中に下剤の服用がなくなった例を含む)は、牛乳群、スイッチ群及び対照群でそれぞれ5割強、6割強及び1割強であった。また、下剤の服用回数が減った対象者のうち、牛乳群と介入群の一部の対象者において便が介入前に比べて柔らかくなった。睡眠(眠りの深さ、長さ等)については、いずれの対象者においても大きな変化は見られなかった。
(5) その他、介護職員による観察事項について
スイッチ群(全8名)の女性5名中3名において、牛乳飲用開始後約4週間から両下腿及び足背のむくみの顕著な改善が認められた。
以上のように、高齢者を対象とした牛乳摂取による水分の影響を除いた比較試験において、牛乳の継続飲用により栄養状態、皮膚の新陳代謝及び腸内環境に関する改善効果又は改善傾向が観察され、さらに、むくみの改善効果が観察された。この結果から、牛乳摂取が高齢者の健康増進へ寄与することが強く示唆された。
なお、本研究は対象者数や牛乳飲周期間等から探索的な試験と位置づけられるため、牛乳飲用期間の延長並びに対象者数を増やすこと等による本研究結果の検証が必要と考える。

書籍ページURL
http://www.j-milk.jp/tool/kenkyu/gakujutsu/9fgd1p000001a9vl.html 
キーワード:
牛乳高齢者栄養状態の改善皮膚のターンオーバー

2015年9月18日