1995年
著者:細野明義
所属:信州大学農学部

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

序文

食品のもつ機能性の追求は食品の「質」の評価の上で大きな意義を有している。今日、我が国を含めて多くの先進国において病因の上を占める心臓疾患は生体内での過剰なコレステロールの蓄積による場合が多い。また、コレステロールの摂取によって腸管内で発ガン物質が生成し、長期にわたるコレステロールの摂取は直腸ガン等のガン発症の原因にもなっている。
一方、乳酸菌が人体に対して多くの優れた働きをしていることは既に明かなところであり、特に乳酸菌のもつ整腸作用、抗ガン作用、免疫増強作用について世界約に研究がなされている。筆者らは乳酸菌の抗変異原性についてこれまでに種々検討してきたが、その過程で、発酵乳から分離した一部の乳酸菌の菌体(生菌と死菌の両者)がアミノ酸加熱分解物である3-amino-1,4-dimethyl-5H-pyrido〔4,3-b〕indole(Trp-P1)や3-amino-1-methyl-5H-pyrido〔4,3-b〕indole (Trp-P2)などを強く総合(>97.37%) させる性燃をもっていることを明かにしてきた。この事実から、乳酸菌の菌体がコレステロールをも総合させる性質を同時的に有しているのではないかとの推測が可能となった。コレステロ-ルは、細胞膜の構成成分として、またステロイドホルモンの前駆物質として生体にとって必須の要素である。しかし、それと同時に、コレステロールの過剰摂取が動脈硬化に関与することはつとに知られている。この動脈便化は正しくは、粥状(アテローム性)動脈硬化と言われるものであり、動脈の内膜へのコレステロールの沈着、内膜の繊維性肥厚および、動脈を包む平滑筋細胞の内膜への侵入、増殖を主病変とするものである。動脈硬化を原因とする疾患のうち、代表釣なものは虚血性心疾患および脳血管障害である。これまで、虚血性心疾患の発症率と血中コレステロール値との間には、正の相関が認められている。この相関の危険因子とされるコレステロールは、低比重リポ蛋白質(LDL)に含有されてるものであり、逆に高比重リポ蛋白質(HDL)は動脈硬化症の発症に抑制的に作用すると考えられている。そこで、値管壁への沈着から、動脈硬化の一因となるLDLは“悪玉コレステロール"と呼ばれ、逆に組織への蓄積を除去するHDLは“善玉コレステロール"と呼ばれている。また、人の結腸癌による死亡率と食餌性高脂肪、低繊維、高コレステロール摂取との間には、高い相関関係が認められている。特に、コレステロール摂取が結腸癌の原因となっていることが示唆されている。コレステロールは食品の加工・調理に対して比較約安定な化合物である。しかしながら、処理条件次第ではコレステロールから様々な酸化生成物、例えば5,6α-エポキシ-α-コレスタン-3β-オールや5,6βエポキシ-5β-コレスタン-3β-オールなどが誘導される。コレステロール自体よりも、これら分解産物が強い発癌関連物質となっていることは言うまでもない。
そこで、本実験では世界各地の乳酸菌から分離した乳酸菌の中からin vitroでのコレステロールとの結合性がより高い菌株を選定すること目的として行った。本研究の意義は乳酸菌を多量に摂取した場合、菌体がたとえ死菌状態であっても消化管内でコレステロールを菌体に結合させ、菌体が自ら坦体としての役割を果たしつつ、体外にコレステロールを排出させる可能性をin vitroでの実験から推測することにある。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000022ll2.html

2015年9月18日