1994年
著者:籏野脩一
所属:淑徳大学社会学部社会福祉学科

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

はじめに

わが国の農業は戦前の主要産業から、今日では就労人口の6.3%(平成2年)を占めるにすぎない状態に線小し、しかも農業生撲の機械化、若い労働力の都市への流出、下請け産業の浸透等によってその農村地帯でも、専業農家はごく少部分を占めるにすぎず、産業形態、就業形態が変化し、交通、情報の発達から、食品産業も含めた産業、流通の変容が絶えず進行中である。食物の生産を業とする農村では、食品内容も急速に変化しつつあるが、食糧は未だ基本的には現地の農産物に依存し、主流はかつての日本人の食習慣を温存している。そのため農村住民の食習慣の変化は、都市におけるよりも、日本人の食生活の基本構造とその影響を観察するよい機会を提供している。過去の食生活を守り続ける人々(大部分は高齢者)も少なくない。牛乳飲用習慣の普及も都市におけるように急速ではないので、飲用者と非飲用者との相違なども温存され、検出し易い。我々が取り組んだ調査地域は、すべて北陸の農村地域で、わが国の中では、脳卒中、胃がん等の死亡率が上位にある県である。同時に田中の研究に示されたように、全図的にみて北陸は牛乳消費が最も伸び悩んでいる地方でもあった。我々の研究でも今では検出困難となった牛乳飲用に伴う食生活の変化やそれに伴う健康影響を観察することができた。また今後牛乳飲用習慣に関連した介入試験等に適した生活環壊を提供していると思われる。
成人病対策は、人口の高齢化が急速に進行中のわが国の保健政策の至上命令の一つである。ここに成人病と称するものは、がん、心臓病、脳卒中と、三大死因を機成する疾患群である。この内脳卒中については、わが国では、戦後急増して昭和40年をピークに減少に転じた肺結核を抜いて死因のトップに躍進し、当時のWHOの統計でも、世界で一、二を争う高率を示した。患者数も多く、わが国は脳卒中の疫学研究に有利な状況を作り出した。七国研究、久山町研究、ニホンサン研究、大阪府立成人病センターの研究等枚挙に暇がないほどの盛況であった。しかし牛乳や乳製品に注目した研究は少なかった。牛乳の含有する飽和脂肪は、血清コレステロール増加を招き、欧米での観察からむしろ動脈硬化を促進し、心臓病を増やす危険があるものと思われていた。しかし大阪、秋田の住民の観察から、小町らは、血清コレステロールが著しく低い日本人では、高めのコレステロールはむしろ脳卒中、とくに脳出血に予防的に働くことを報告した。わが国の食習慣の中では、食塩の過剰摂取が問題であり、さらにタンパク質や脂肪の過少摂取が、高血圧を増強していることが、木村らの七国研究や家森らの国際共同研究ほかの研究者に指摘されてきた。
我々の牛乳飲用習慣と成人病の関係に関する研究は何を示しただろうか?
成人病として我々が関心を抱いたのは、高齢化に伴って浮上してきた骨粗懸症を加えた4疾患と中高年者における総死亡である。
予定した3年間の研究期間を終えたので、ここにその間の研究成果をまとめて参考にする。(詳細は各年次の報告書を参照されたい。)最後に今年度の成果を報告する。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021rh3.html

2015年9月18日