1988年
著者:中井継彦
所属:福井医科大学第三内科

  • 健康科学
  • その他

研究目的および研究の社会的意義

 本邦の男性、女性ともに平均寿命が延長し、欧米先進国を凌駕しつつある。死因の内訳として、結核、肺炎などの感染性疾患の著しい減少、脳血管疾患特に脳出血の減少が大きく寄与している。しかし、逆に虚血性心疾患による死亡率が漸増し、欧米型に近づこうとしている。その原因としては、日本人のライフスタイルの欧米化、とりわけ栄養素の摂取内容の推移が注目されている。総蛋白摂取に占める動物性蛋白質の割合および総脂肪摂取に占める動物性脂肪の割合が昭和20~30年代の20~30%から昭和57年には約50%に達している。植物油に含まれるリノール酸、リノレン酸などの必須脂肪酸が高脂血症を改善させるが、動物油脂に含まれる飽和脂肪酸は血中コレステロールを上昇させると報告されており、植物油摂取の有用性が啓蒙されている。
疫学的に、植物性脂肪が動物性脂肪よりも動脈硬化性疾患の惹起性が少ないとされ、植物性脂肪の使用が推奨されている。しかし、その詳細な機序に関しては未だ十分明らかにされていない。種々の脂肪を経口摂取すると、小腸にて消化吸収され、腸管リンパ管を経由して外因性血疑リポ蛋白として大循環に入る。外因性リポ蛋白は腸管由来であるから、ヒトではアポ蛋白(apo)B-48を含有するカイロミクロンとして小腸細胞より分泌され、未梢の毛細血管内皮細胞に存在するリポ蛋白リパーゼによりカイロミクロンのトリグリセライド(TG)が加水分解を受ける。その結果、カイロミクロンレムナントが形成されるが、肝細胞によって素早く取り込まれ、血中から処理される。しかし、摂取する脂肪の種類によって前述のTG-リッチリポ蛋白の代謝過程にいかなる差異が認められるかについては十分明らかにされておらず、本研究において、これらの課題を検討する。乳製品や油脂製品であるバター、マーガリンや生クリームを経口摂取し、被験者の血漿およびリポ蛋白分画中の各種脂質、各種アポ蛋白、apoB-48などを分析する。さらに、三種の脂肪摂取によって生じた血中のTG-リッチリポ蛋白を採取、調整し、レムナント代謝の主要細胞である培養肝脂肪と動脈硬化の発症、進展と密接に関連する培養動脈平滑筋細胞やマクロファージを用いて両者の相互反応性や細胞内リポ蛋白代謝過程におよぼすTGリッチリポ蛋白の影響について検討する。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021rwd.html

2015年9月18日