2012年
著者:岡田直樹 北海道立総合研究機構中央農業試験場
所属:北海道立総合研究機構中央農業試験場
雑誌名・年・巻号頁:2012年度日本農業経済学会論文集、2012年12月、45_52

  • 社会文化
  • 酪農経済・経営

<要約>

課題: 本稿では、北海道を事例に、TMRセンター化のもとで酪農経営個々の間に経済性格差が生じる要因を解明する。分析対象は、経産牛40〜100頭程度の中規模経営によるTMRセンターとし、中規模経営によるTMRセンターに多い、飼料収穫調製作業を酪農経営の出役で行うセンターを対象とする。センター構成酪農経営を、生乳生産量を増加させた経営群とそうではない経営群とにグループ化し、生乳生産量の変化がどのような経営行動のもとで生じているかを確認する。
 結論:事例分析から、TMRセンター化のもとで、高泌乳化を急速に進める経営群と、高泌乳化と多頭化を併進する経営群とで異なる経営行動がみられ、そのもとで所得の変化にも差異があることが明らかとなった。すなわち、①TMR単価22円/kg水準のもとでは、移行前に比べて経産牛1頭当たり飼料費は増大し、所得確保には高泌乳化が不可欠となっていた。②酪農経営は、センター化直後に高泌乳化する経営と、多頭化と高泌乳化を併進する経営がみられた。③高泌乳化のみ行う経営では、センター化後、1〜2年内に経産牛1頭当たり乳量を急速に高める傾向がみられた。しかし、ここでは疾病や繁殖の悪化が生じ、その後の乳量水準は低下する場合が多かった。このため、移行後の生乳生産量は年次間で安定せず、所得の低迷がみられた。④高泌乳化と多頭化を併進する経営では、経産牛1頭当たり乳量は年次をかけてゆるやかに上昇する傾向がみられた。また、移行数年後でも経産牛1頭当たり乳量は9,000〜10,000kg程度であった。増頭とも相まって生乳生産量は安定して増加し、所得向上がみられた。
 このような差が生じる要因として、給与飼料価格水準の変動、特にTMR単価水準への適応力の経営間格差の存在を指摘できる。こうした経営間格差は、労働供給力の差異、投資力の差異、およびそれらのもとでどの程度の多頭化が実現しうるかに規定されるとみられる。事例では、生乳生産低迷グループでは、労働供給力や投資力の限界から多頭化が成約され、TMR単価上昇に対し短期間で高泌乳化を進めることが唯一の対応策となった。これに対し、生乳生産増加グループでは、前者より労働供給力や投資力が大きく、この結果、大幅な増頭を実現し、そのもとで時間をかけて高泌乳化を進めることが可能であった。TMR単価水準への適応力の経営間格差は、センター化に際して飼養管理技術の転換を必要とし、増頭への施設の弾力性が乏しい中規模経営で生じやすいとみられる。
 こうした状況からの脱却には、増頭とTMR需要拡大に向けた酪農経営間の共通戦略の形成や、労働供給力や投資力格差の緩和に向けた酪農経営間の連携・協調行動が必要である。 

<コメント>

生乳生産基盤を維持・強化するための支援組織として、TMRセンターはこれからさらに重要度は高まる。本論文は、中規模経営を対象として、TMR移行後の1頭あたり飼料費上昇に対して、高泌乳化だけでなく、多頭化を成し得るかどうかが所得格差のキーになっている点を解明した。TMRセンター設立後の酪農経営だけではなく、TMRセンター経営の持続性という面でも多くの示唆を得られる論文である。

書籍ページURL https://www.j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000j5tk.html

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2015年9月21日