2009年
著者:Jeri Quinzio
所属:A Freelance Food History Writer
雑誌名・年・巻号頁:University of California Press, 2009年, 全281頁.

  • 社会文化
  • 食文化

<要約>

多くの人に愛されるスイーツ・アイスクリーム。その起源については、皇帝ネロが好んだ蜂蜜をかけた氷説、マルコ・ポーロが旅先の中国で出会ったとする説、カトリーヌ・ド・メディチの婚礼に際してのフランス伝来説など諸説あるが、いずれも文献上に実証できるものとは言い難い。また資料上に「アイスクリーム」という言葉がみられるようになるのは17世紀のことで、1671年5月にウィンザーで催されたチャールズ2世の食卓記録が初見とされている。そこで本書は、17世紀を起点に、欧米のアイスクリームの製造・食用の歴史を紐解きながら、その時代別のイメージを明らかにすることを目指している。
第一章では、中東の飲み物だったシャーベットの起源に始まり、ヨーロッパ各地の料理書の中に登場する「冷やしたクリーム(Iced Cream)」の端緒を明らかにしている。クリームやカスタードを冷やし、デザートとして供するスタイルはヨーロッパに始まる。著者によれば、料理書にみるミルクを使ったレシピの初見は、イタリア人アントニオ・ラティーニの「ソルベッタ・ディ・ラッテ(ミルクのソルベ)」であり、すでに16~17世紀にはイタリア、フランス、イギリスなどの料理書に、クリームや牛乳の乳製品と砂糖を混合し仕上げるデザートのレシピが確認できるとしている。さらに17~18世紀になると、フランスにおいて、冷たいデザートを指す言葉に広がりがみられるようになることをあげ、早い時期にはアイスクリームを「フロマージュ・グラッセ(凍らせたチーズ)」「フロマージュ・ア・ラ・クレーム・グラッセ(アイスクリームチーズ)」などと呼んでいたことを指摘している(第二章)。第三章では、18世紀以降のイタリアやイギリスなどの料理書や菓子製造書にみえるアイスクリームレシピの系譜を追い、広がりをみせていくレパートリーの様相を明らかにしている。第四章では舞台をアメリカに移し、家庭向け料理書にみるアイスクリームレシピの概要、さらに拡大するアイスクリーム産業成立の道程について詳述している。著者はアメリカにおけるアイスクリームの大衆化を、独立戦争後の動きとして説明する。また家庭でのアイスクリーム作りを普及させるきっかけになったのは、メアリー・ランドルフの『ヴァ—ジニアの主婦』(1824)の出版であり、本書はアメリカで執筆されたもののなかで、「アイスクリーム」の章をもうけた最初の料理書であると指摘する。(独立戦争前後は、アメリカにも料理書は出版されていたが、そのほとんどが、イギリスやフランスで出版され、持ち込まれたものであった。)またパーキンソン夫妻のアイスクリームビジネスの成功、ナンシー・ジョンソンのアイスクリームフリーザーの発明なども、家庭生活へのアイスクリームの普及に拍車をかけたという。さらに19世紀半ばになると、ミルク、バター、クリームなどの乳製品ディーラーであったジェイコブ・ファッセルによって、アイスクリームの大量生産が開始された。1851年夏、クリームの過剰供給に気づいたファッセルは、アイスクリーム製造に乗り出し、その可能性を自覚。これがアイスクリームビジネスへの転換期となった。第五章では、19~20世紀のアイスクリームの諸相に焦点を当て、ホーキーポーキー(街頭のアイスクリーム売り)、アイスクリーム・サンドイッチ、ソーダファウンテンのアイスクリームソーダなどの誕生プロセスについて説明している。また第六章では、女性たちの手によって紡がれていく料理書を精査し、広がりゆく冷たいデザートのバラエティについて考察、さらに第七章からエピローグにかけては、アイスクリームコーンビジネスの発達やメジャーなアイスクリーム産業の系譜など、20世紀以降にみられる今日的な展開について論を展開している。アイスクリームの社会史としても参考になるべき良書である。

<コメント>

本書は、カリフォルニア大学出版企画「カリフォルニア食文化研究シリーズ」の一巻である。本書の魅力は何といっても詳細な文献調査の下で執筆されている点といえよう。特に各時代の料理書・手記・ジャーナルなどを精査し、アイスクリームの特徴・社会的位置づけを丹念に紐解く研究手法には大いに学ぶべきところがある。世界中のアイスクリームファンの読書欲を満たしてくれる味わい深い一冊である。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000lg1w.html

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2015年9月21日