2014年
著者:上野恭裕・坂田健二
所属:大阪府立大学経済学部
雑誌名・年・巻号頁:平成24年度乳の社会文化学術研究 研究報告書、2014年3月、p1−35

  • 社会文化
  • 歴史

<要約>

本研究は、文献調査及び、日英での牛乳販売店に対するインタビュー調査(日本国内では京丹後地区3件、兵庫県養父市1件。イギリス資本で最大の乳製品販売企業Dairy Crest社=売上高2000億円、従業員数6500人—2012年)から、日本の牛乳販売ルートの特徴を明らかにし、牛乳宅配業の今後の指針を示している。
牛乳宅配業者は、乳業会社の販売戦略によって構築された牛乳販売流通ルートの一端を担う事業者で、「乳類販売業許可」を持ち、牛乳を主に一般家庭へ販売している。具体的には、半径3㎞から5㎞を中心に地域住民との間で個別宅配契約(月極め契約)を結び、契約者宅の玄関に受け箱を設置して、そこに商品を届ける。乳業メーカーは牛乳宅配業者には、ビン入り牛乳のほか、カルシウムやビフィズス菌、ラクトフェリンなど栄養成分を付加した牛乳タイプ飲料といった宅配専用商品を卸し、紙パック入り牛乳を廉売するスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどのルートと差別化を図ってきた。日本の牛乳宅配業が行ってきた月極めシステムは、一定期間継続して牛乳を届けることにより牛乳飲用習慣の形成を促してきた。現在でも宅配専用商品は健康意識の高い顧客に愛飲されているが、牛乳販売店主の高齢化や後継者不在の問題、さらに利用者の高齢化といった問題を抱えている。
本稿は、牛乳宅配業がこれからの高齢社会に必要な存在になるとしてその重要性を確認したのち、今後も存続するためのポイントを3つあげている。その第一は、牛乳・牛乳タイプ飲料の顧客への情報提供をはじめとするコミュニケーションの重要性である。牛乳販売店は従来月に1度集金のため利用者宅を廻っており、この時コミュニケーションをとってきたのだが、近年銀行引落しやコンビニ決済の利用が増え、利用者と直に接する機会は減少する傾向にある。第二に、筆者らは牛乳以外の他の食品の取り扱いも牛乳販売店の今後の有効な戦略の一つとみている。Dairy Crest社ではMilk&Moreを立ち上げ総合食料品配達に取り組んでいるほか、イギリスでは牛乳宅配業は単に牛乳を宅配するばかりではなく地域社会の治安維持機能の一部を担う社会関係資本を形成しているという。以上の2つは本研究でインタビューを行った日本の牛乳販売店は既に模索中であった。意欲的な牛乳販売店は、丁寧な商品説明・試飲などコミュニケーションが大切であることを理解し、多様な商品を展開しつつある。
最後に本研究は、牛乳販売店が行う顧客サービスの均一化とレベルアップを図るためには、現在の牛乳販売店システムの見直しが必要だと流通販売システムの変革まで踏み込んでいる。日本の乳業メーカーが牛乳宅配業者と結んでいる特約店契約は店主の意欲によって顧客サービスにムラが出てしまい、乳業メーカーの改善指導が強く効かない側面がある。イギリスでは特約店制度ではなく、直営(従業員による配達)とフランチャイズ・システム(独立系販売店)を併用した流通ルートとなっており、直営であるからこそサービスの均一化、オンライン化、コンピュータ運営が可能となる。 

<コメント>

宅配業を通じた流通経路から、日本の牛乳飲用の習慣がどのように形成されてきたか、また今後どう発展する可能性があるかを論じた研究である。同じ宅配業に着目した先行研究(小金澤孝昭 1995、小金澤孝昭・伊藤慶 2007 どちらも仙台市を事例とした研究 ほか)もあげられており、今後この視点からの研究も進むことが望まれる。

書籍ページURL http://www.j-milk.jp/tool/kenkyu/berohe000000lg1w.html

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2015年9月21日