2013年
著者:長命洋祐1・林和徳2・福井弘之2
所属:1龍谷大学・日本学術振興会特別研究員 2徳島県立農林水産総合技術支援センター
雑誌名・年・巻号頁:農林業問題研究、48(4)、2013年3月、29−39

  • 社会文化
  • 酪農経済・経営

<要約>

課題:徳島県を対象に、牛群検定に参加している酪農家を対象に行なった意識・意向調査をもとに、乳牛の飼養管理状況および飼養管理意識を明らかにする。具体的には、個別経営において所得確保のために重要視している項目を明らかにしたうえで、飼養管理意識との関係を示す。加えて、牛群検定の成績および牛群検定情報との関係性についても考察し、今後の飼養管理への方策を検討する。
酪農家の飼養管理意識、ならびにそのグループ化に、AHP法(Analytic Hierarchy Process)とクラスター分析を用いている。
結論:本論文の結論は以下の3点である。
第1に、徳島県の牛群検定農家は、生産性の向上による所得確保ではなく、生産コストを削減する方向での所得確保を重要視していることが明らかとなった。特に、乳量の増加を重要視するのではなく、在群期間の長期化および乳成分の安定化をはかることを重要視している意向がみられた。この背景には、受胎率低下による空胎時の飼料給与・乳房炎などの疾病による追加的な生産コストの増加・乳質基準に対するペナルティを回避したい意向が働いていることが考えられた。
第2に、牛群管理の方法として、県外からの導入牛に対する評価が低いことが明らかとなった。その一方で、自家育成による牛群管理への意識は相対的に高いものであった。徳島県酪農の情勢を考えると、乳量の増加より生産費の削減を目指す農家の意向は県の生産方針に重要な示唆を与えるものであるといえる。
第3に、所得確保に対する意識と牛群検定の成績に管理が生じていることが明らかとなった。このことは、飼養管理などの重要性を認識し、牛群検定の成績に結びついている農家と重要性は認識しているが飼養管理技術が伴わず成績に結びついていない農家が混在していることを意味している。今後は、検定農家が必要とする情報を取り入れ、普及指導を行っていくことが有効な方策であると考える。

<コメント>

酪農家がどういった管理意識で所得確保を志向しているかを客観的に示した論文である。事例の徳島県に関しては生産量増加→所得確保というインセンティブが弱く、生乳増産が求められている昨今、外部的なインセンティブがないと増産に取り組めない酪農家の状況を示している。本州酪農にはある程度、当てはまる結論だろう。また、現場ではよく指摘されている酪農家間の飼養管理技術の格差も実証されており、興味深い。今後の増産対策を考えるうえで示唆に富む論文と言える。

書籍ページURL https://www.j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000lg1w.html

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2015年9月21日