2010年
著者:清水池義治 名寄市立大学保健福祉学部
所属:名寄市立大学保健福祉学部
雑誌名・年・巻号頁:酪総研選書No.90、デーリィマン社、2010年、158p

  • 社会文化
  • 酪農経済・経営

<要約>

課題:乳業メーカーおよび生乳生産者団体の市場行動による原料乳市場構造の変化メカニズムを明らかにする。特に、市場構造の変化の過程で原料乳取引に関する一制度である「用途別取引」制度が果たした機能について注目する。分析対象は、酪農および乳業の産業組織が原料乳取引という点で結節する原料乳市場である。わが国の酪農乳業の特性を踏まえて修正を加えたSCPアプローチを分析手法として用いる。
 結論:1990年代以降の酪農と乳業との相互作用関係は、以下のように整序できる。まず、乳業と酪農の基礎条件が変化する。1990年代に入ると牛乳消費量の伸びが停滞し、飲用乳向け原料乳の需要も同様に停滞した。生乳生産量が増加する中での飲用乳向け原料乳の需要停滞によって乳製品向け原料乳が増加し、乳製品の過剰在庫がもたらされたのである。つづいて、これら基礎条件の変化に対応して、酪農(生乳生産者団体)の市場行動が変化する。ホクレンを中心として乳製品過剰在庫対策である生クリーム対策が開始され、生クリーム等向け原料乳価の引き下げが実施された。酪農の市場行動におけるこの変化は、乳業の基礎条件である原料乳の供給条件の変化を意味する。新たな価格水準での生クリーム等向け原料乳と、必要時必要量の優先分配を特徴とする「優先用途」販売方式との組み合わせは、乳業の市場行動である原料乳調達戦略の変化を誘発させた。すなわち、一部メーカーにおける北海道での原料乳調達比重の増加であり、その中心となった用途が生クリーム等向けである。この原料乳調達戦略の変化は、1990年代半ばからの牛乳消費量減少に対応した乳業メーカーの製品戦略の変化、つまり牛乳から発酵乳・乳飲料・液状乳製品・チーズへの製造品目のシフトに非常にマッチする動きであった。これによって、酪農の基礎条件である「優先用途」需要の継続的な増加が促進され、北海道における原料乳市場構造(酪農の市場構造)の変化(=用途構造の変化)が生じたのである。その際、乳製品在庫の偏在によってホクレンの生クリーム対策(酪農の市場行動)に対応した乳業メーカーの原料乳調達行動(乳業の市場行動)が不均一になり、それによって乳業メーカーの原料乳購入シェアの大きな変化を伴う形態で用途構造の変化が起こったという点が特徴として指摘できる。これが、1990年代半ばから2000年代にかけて北海道で生じた原料乳市場構造(酪農の市場構造)の変化過程とそのメカニズムである。 

<コメント>

生乳取引を対象とした数少ない研究のひとつ。北海道における生乳取引の仕組み、ならびに原料乳市場における乳業メーカーのシェアがなぜ現状のようになっているかが豊富なデータから論証されている。また、複雑かつ難解な生乳取引の仕組みとそれに関連する制度・政策を理解するうえでも、本書は有益である。
 

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2015年9月21日