2015年
著者:徳田 克己
所属:筑波大学医学医療系

  • 社会文化
  • マーケティング

要旨

 ドイツやオランダ、オーストラリアなどにおいて、中国人が粉ミルクを買い占めてしまうことから、中国人に粉ミルクを販売しない、販売できる数量を限定するなどの措置が講じられている。なぜこのような事態が生じたのかについては、中国における偽ミルク事件、粉ミルクへのメラミン混入事件が背景にある。これらの事件によって、多くの子どもの命が奪われ、重度の栄養失調、腎臓結石などの病気に苦しむ子どもを生み出した。その後中国では、乳幼児を持つ保護者が中国製の粉ミルクへの不信感を募らせ、外国製の粉ミルクを買い求める動きが起きるようになった。 
また、粉ミルクに関して乳幼児を持つ保護者は敏感かつ懐疑的になり、さまざまな噂やデマに翻弄されている。
 そこで本研究では、中国都市部において、乳幼児を持つ保護者が粉ミルクをどのように入手し、子どもに与えているのかに関する現状を明らかにするとともに、中国および世界のさまざまな国と地域においてどのように粉ミルクが販売されているのかについて調査した結果を報告する。
中国都市部で生活する乳幼児を持つ保護者を対象に行ったヒアリング調査の結果、以下のことが明らかになった。
・中国製の粉ミルクを購入している家庭は2割に過ぎなかった。外国製の粉ミルクを購入するために、多くの者が「外国の知人から送ってもらう」「外国のサイトで直接購入する」「自身が外国で購入する」などの工夫をしていた。
・中国製の粉ミルクの安全性に関する不信感は強く、「身体に悪い成分が入っている可能性がある」「生産過程、保存過程に問題がある」「偽物である可能性がある」という理由を挙げていた。これらは、すべてこれまでの偽ミルク、メラミン混入事件、その他の食品偽装事件の影響を受けていた。 
・日本の粉ミルクが手に入るならば購入したいかについて尋ねたところ、7割以上の者が購入したくないと述べた。その理由は、放射能汚染の不安、入手困難であり子どもに飲み続けさせられないこと、反日感情、ヨウ素の含有量の問題が複雑に絡み合っていた。 
・子どもを持つ保護者は、中国政府や企業の発表する資をあまり信用していなかった。内容の信ぴょう性は不確かであるが、口コミの情報を信じて、「危険である」と噂される物を子どもから回避する行動をとっていた。 
 また、中国の大型スーパーマーケットでどのような粉ミルクがどう販売されているのかを調査した。その結果、高額(900グラム缶につき、日本円にして7000 - 8000円)の外国製の粉ミルクが最もよく売れていた。また、それよりも高額な外国製のオーガニックの粉ミルクを買う者もいた。我が子に安全な食を提供するために多額の出費をしている現状がうかがえた。 

2017年3月9日