2012年
著者:細野ひろみ
所属:東京大学大学院農学生命科学研究科

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はじめに

東日本を中心に壊滅的な被害をもたらした地震と東京電力福島第一原子力発電所事故から3年が経過しようとしている。事故発生直後から、市民の間には放射性物質による環境中や食品中の汚染に対する懸念が広がりをみせており、食品購入時には産地を確認するなど、特定の地域の食品に対する買い控えが見られるようになった[1][2][3]。
こうしたなか、放射性物質による環境中や食品中の汚染状況に関する調査が各地で実施され、汚染状況の実態把握がすすめられた。当初設定された食品中の暫定規制値は、2012年4月に基準値として見直された。一般食品中の放射性セシウムは100Bq/kg以下に、乳・乳製品の場合は50Bq/kg以下に管理されている。公表されている食品の汚染状況を確認すると、現在では、山菜やキノコ類、魚介類を除くほとんどの食品が未検出であることが確認できる[4]。とはいえ、放射性物質に対する懸念や不安が払しょくされたわけではない。牛乳については、2011年3月に暫定規制値を超える放射性ヨウ素が検出され、その後7,000件以上の公的な検査が行われてきた。2011年7月以降はすべての検査結果が新基準値の上限である50Bq/kgを下回っており、2012年に入ってからはすべてが検出限界以下である。牛肉については、2011年の夏に暫定規制値を大きく上回る放射性セシウムが検出されて以降2013年1月までに24万件を超える放射性物質の検査が行われてきた。2012年11月以降は、基準値である100Bq/kgを上回る放射性セシウムは検出されておらず、99%以上が検出限界を下回っている。しかし、福島県産牛肉の枝肉卸売価格は、徐々に回復がみられるものの、全国平均を下回る価格での推移が続いている[5]。
震災後は、市民の食品リスク認知や購買行動についての研究も蓄積がすすめられている[6][7][8]。食品安全委員会のモニター調査の結果をみると、放射性物質を含む食品に対する不安の程度は、2011年には88.5%の回答者が不安であると回答していたのに対し、2012年には80.3%、2013年では74.2%と低下傾向がみられる。しかし、依然として不安感が高いことを示す結果となっている。本調査研究においても、市民が放射性物質のリスクや被災地の食品についてどのように認識し、商品を選択しているのかを探る調査を行った。以下では、この調査の結果について述べることにする。

書籍ページURL
 https://www.j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000hclf.html

2015年9月21日