2012年
著者:北澤春樹
所属:東北大学大学院農学研究科

  • 社会文化
  • 酪農経済・経営

要旨

乳資源として極めて重要なウシなどの家畜は、幼若期に大腸菌、ロタウイルスおよび原虫による腸管感染性下痢症に罹患し慢性炎症が誘導され易い。その予防と成長促進のために抗菌剤の大量使用を余儀なくされ、結果として、健康危害のリスク増大が懸念されている。近年、腸管免疫調節機能を有するプロバイオティクスとしてイムノバイオティクスという概念が生まれ、抗菌剤代替としての利用性が期待されている。しかしながら、現在のところ、ウシ対応型のイムノバイオティクスを選抜する的確な評価系がない。そこで本研究では、健康危害リスクの低減による消費者の安心を確保する社会貢献を目指し、ウシ腸管上皮細胞株(Bovine Intestinal Epi theliocyte cell line; BIE cell line)を用いて、ウシ対応型のイムノバイオティック評価系の構築を行い、その利用性を追求した。
その結果、以下の結果が得られた。
① BIE 細胞は、自然免疫受容体として知られるToll 様受容体(TLR)1-10 全てのmRNA を発現し、TLR2, 4 のタンパク質発現を検証したことから、下痢原性大腸菌刺激によるイムノバイオティクスの抗炎症性評価に有用であることが期待された。さらに、BIE 細胞における炎症応答解析により、IL-6, IL-8 およびMCP-1が評価系に有効な免疫パラメータとして選抜された。
② BIE 細胞を用いて、イムノバイオティクスによる最適刺激時間を決定し、イムノバイオティクス候補を含むいくつかの乳酸菌株のうち高い抗炎症性が期待される菌株を選抜した。
③ BIE 細胞において、選抜菌株やTLR2 リガンドの前刺激により、いくつかのネガティブレギュレーターの発現が誘導された。また、ウエスタンブロッティングによる細胞内炎症シグナルの解析から、イムノバイオティクスの前刺激により、下痢原性大腸菌誘導型の炎症シグナルの進行が抑制された。
以上の結果から、本評価系で選抜したウシ対応型のイムノバイオティクスについて、TLR2 などによる認識から細胞内シグナル調節分子を介する炎症応答調節機構の一端が解明された。本研究により、BIE 細胞を用い、世界に先駆けてウシ対応型のイムノバイオティック評価系が提案でき、抗菌剤代替あるいは軽減による家畜の健全育成から、安全な畜産食品の持続的供給による安心社会の構築に大きく貢献することができる。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/alliance/berohe000000hclf.html

2015年9月21日