2010年
著者:戸塚護
所属:東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻

  • 健康科学
  • 免疫調節・がん

要約

ストレス負荷は自律神経系や内分泌系の変化のみならず、免疫系にも影響を与える。炎症性腸疾患や過敏性腸症候群、アレルギー疾患の発症・増悪にストレスが関与する可能性も知られている。一方、乳酸菌の経口摂取はストレスホルモンの分泌を抑制し、ストレスによる腸内細菌叢の変動を抑制する。ストレスが腸管免疫機能を低下させること、乳酸菌がストレス緩和作用や腸管免疫機能の向上を示すことは周知である。しかしストレスが引き起こす腸管免疫系の変化に対する乳酸菌の影響についての報告はほとんどない。本研究ではストレスが誘導する腸管免疫機能の低下モデルを確立し、このモデルを用いてプロバイオティクスとしての乳酸菌の効果を検討することを目的とした。
ストレス誘導性のアレルギー性腸炎モデルの確立を目指し、以下の検討を行った。DO11.10マウスに代表的な精神的ストレス負荷である拘束ストレスを1週間負荷した後、ストレスの負荷とともに20%卵白アルブミン(OVA)含有水を与えて、体重推移、糞中IgA量、血清中IgE量を検討した。その結果、ストレス負荷とOVAの摂取が同時に行われると、一時的に有意な体重減少が確認された。しかし、糞中IgA量、血清中IgE量に関してはストレスの有無で差はみられず、再現性の高い有効なストレス誘導性のアレルギー性腸炎モデルの確立には至らなかった。
次にストレス誘導性の腸管免疫機能の低下として、BALB/cマウスに拘束ストレスを負荷すると腸管IgA量が減少することが報告されている。本研究では同様の変化がみられること、有意に体重が減少することを確認し、結腸においてIgA分泌細胞の分化に必要なIL-6のmRNA発現量が減少する傾向を見出した。本実験系は、ストレス誘導性の腸管免疫機能低下の実験モデルとして有効であると考えられる。
ストレスによる腸管IgA産生量の低下を緩和する作用を示すプロバイオティクス乳酸菌の候補として、LactococcuslactisC59(C59)について検討した。腸間膜リンパ節(MLN)細胞およびパイエル板(PP)細胞と共培養し、上清中のTGF-量を測定した。その結果、MLN細胞と培養時に、乳酸菌の濃度依存的にTGF-産生の促進が観察された。次に実際にC59の経口投与がストレス誘導性の腸管免疫機能の低下を抑制するかについて検討した。すなわち、BALB/cマウスにC59を1週間投与した後、C59の投与とともに拘束ストレスを負荷し、体重推移、糞中IgA量、結腸におけるmRNA発現量を検討した。その結果、C59の摂取によって、ストレス負荷による体重減少が抑制されることが明らかとなり、糞中IgA量の減少が緩和する傾向が示された。以上のことから、乳酸菌C59はTGF-産生を促進し、ストレス誘導性の腸管免疫機能の低下を緩和する可能性が示された。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000022nlp.html

2015年9月18日