2008年
著者:伊木雅之
所属:近畿大学医学部公衆衛生学

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

緒言

骨粗鬆症は骨折を介して高齢者の生活の質(QOL)を低下させ、要介護状態の原因となる疾患として、公衆衛生上も医療経済上も極めて重要な対策課題である。骨粗鬆症の発症には閉経後の骨量減少が重要な役割を果たすことから、骨粗鬆症は女性の病気とされ、健康増進法による骨粗鬆症検診は女性のみを対象とし、骨粗鬆症予防教室の参加者もほとんどが女性である。男性への公的な予防対策やその周知はほとんど行われていないと言ってよい。患者調査でも、骨粗鬆症治療を受けている男性の数は女性の10分の1以下と少ないのが現状である。しかし、骨粗鬆症性骨折の中でもっとも重篤な大腿骨近位部骨折の2002年の発生数は女性91,000件、男性25,000件で、男性が全体の22%を占めている。しかも、骨折後の生命予後は女性よりも男性の方が悪いと報告されている。椎体骨折も女性での有病率45%(70歳代)ほど高くはないが、男性でも約25%となっている。以上のように骨粗鬆症は男性においても看過できない問題なのである。
それにもかかわらず、男性における予防対策やその周知が不十分なのは、対策の基盤となるべき疫学研究が決定的に不足しているために他ならない。我が国での研究は、藤原らの、広島・長崎の被曝生存者コホートを対象に椎体骨折の罹患状況と骨密度の関連を検討した研究以外にはほとんどない。しかし、この集団は被曝の影響を検討するために医学的に管理された集団であり、一般住民を代表しているとは言い難いし、男性総数は763人、内、60歳以上は524人しかなく、追跡期間も最大4年で、十分な検出力をもつものとはならなかった。一方、海外では、2004年に男性を対象とするコホート研究、MrOS研究が開始され、近年コホート研究の成果が報告され始めているし、WHOの研究グループによる絶対骨折リスク評価モデルの男性版も公開されている。
我が国においては、予防対策に必要な、骨折リスクを評価して、だれにどのような対策を講じるべきかを判断するスキームはおろか、リスク評価の基礎となるリスク要因の把握すら十分でないのが現状である。
そこで、本研究は捨て置かれた男性骨粗鬆症に光を当て、男性においても骨粗鬆症の罹患や骨折の発生に重要な影響を及ぼすと考えられる牛乳・乳製品摂取、運動習慣、体力等の骨折・骨粗鬆症予防効果を明らかにするために、我が国初の地域在住高齢男性を対象とする大規模コホート研究を立ち上げた。本報告書はそのベースライン研究の解析結果である。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p000001ahym.html 

2015年9月18日