2005年
著者:梶田悦子
所属:名古屋大学医学部保健学科地域在宅看護学

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

はじめに

超高齢社会を間近にひかえ、加齢とともに増加する骨粗鬆症は医療上も経済上にも大きな問題であり、その予防は公衆衛生の重要課題の1つである。西暦2010年には4人に1人が65歳以上の高齢者になる状況の中、介護保険制度が2000年にスタートし、超高齢社会における要介護高齢者に対する福祉施策の充実が焦眉の急となっている。しかし、日本の平均寿命は平成2004年には男性78.6歳、女性85.6歳となったが、今なお伸び続け、世界記録を毎年更新している。同時に65歳以上のいわゆる高齢人口も増え続け、全国値で20%、2030年には30%にせまり、2050年には現在の1.5倍の35.8%になると推計されている。人類が未だかつて経験したことのない超高齢社会は目前である。元来、長生きすることは良いことで、長生きは長寿であり、本来、寿ぐべき人々の夢であった。しかし、超高齢社会の現実が垣間見え始めた現在、高齢者の多い社会に喜ばしいイメージを持つ人は少なくなり、いつしか超高齢社会とは呼んでも、長寿社会とは呼ばなくなった。確かに人口の30%以上を占める高齢者を50%たらずの生産年齢人口が経済的に支えるのは難しい。
保健の面でも2000年より「健康日本21計画」がスタートし、健康寿命の延伸をめざして、生活習慣病を一次予防する取り組みが進み始めた。活力ある地域社会を創造するためには、高齢になっても、生き甲斐と役割を持ち、社会を支える1自立人として生きていってもらわねばならない。そのためにそれを阻害する疾患を根こそぎ予防しなければならない。ところで、高齢者の自立化を阻害する疾患は、生活習慣病の中でもっとも恐れられている癌や心筋梗塞ではない。命は取り留めても障害を残し、要介護や寝たきりの原因となる脳血管疾患や骨折である。本疫学調査が対策目標とする骨粗鬆症とそれによる骨折は、現在の寝たきり高齢者の12%の原因となり、近年、増加傾向が著しい。骨折予防は高齢者の要介護化の防止、寝たきりの予防、QOL(Quality of life)の維持のために極めて重要である。しかし、そのために何をすればいいかについての的確なデータは少ないし、実施した対策が効果を上げているかどうかの検証はほとんどなされたことがない。これらのことをきちんと明らかにする調査を行い、データに基づいて有効な予防策を実施することが必要である。しかし、それはやる気のある自治体と医師・疫学者らの共同作業があって初めて実現する。そのような地道な努力の積み重ねこそが、超高齢社会を長寿社会と呼ぶ時代を到来させるのである。
我々は、そのような超高齢社会を迎える中、中高年女性を対象に、重要な保健課題である骨粗鬆症予防にと取り組んできた。骨粗鬆症は大腿骨頸部骨折などを介して寝たきり老人の原因となる疾患で、その患者数は500万人とも1000万人とも言われている。患者数は人口の高齢化に伴って増大し、高齢者の重要な健康問題のみならず、医療費を押し上げる重要な要因になってきている。
この骨粗鬆症予防策を明らかにするために、筆者らは福井県山間農業地域と海浜漁業地域において平成2年に疫学調査を実施し、その後数年おきに追跡調査を行ってきた。平成17年度には、牛乳栄養学術研究事業の助成を受け、福井県厚生農業協同組合連合会や、調査地域の農協の援助を頂き、15年後の追跡を「地域在住中高年女性における牛乳・乳製品摂取の体重、骨密度、並びに骨折への影響を評価する我が国最長の追跡研究15年間の完遂」というテーマで実施した。その結果、骨粗鬆症を予防する上で大切な資料を得ることができたので、報告する。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/8d863s000006ur12.html 

2015年9月18日