2000年
著者:能谷修
所属:東京都老人総合研究所

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

要約

目的:本研究の目的は、地域高齢者の老化を遅延させるための食生活への介入により表出した牛乳飲用習慣の血清コレステロ-ル低下予防の効果が抑うつ度の変化に及ぼす影響を評価することにある。
対象と方法:介入の対象地域は秋田県仙北部南外村である。介入集団は、村内に在住する65歳以上の高齢者全員である。介入期間は1996年から1998年の2年間である。分析は高次生活機能の自立度の高い在宅高齢者442名に対して行った。
介入プログラム:介入プログラムは、行政と共同運営し、既存事業の運営体系に組み込み展開された。栄養改善プログラムでは、老化を遅らせるための食生活指針を考案・提示し、低栄養を予防するため牛乳をはじめとする動物性食品を十分摂取することを強調した。老人保健法に基づく基本健康診査の会場では、牛乳・乳製品の摂取を促すための健康学習会を開催し受診者全員に対して200mlの牛乳パックを配布した。
結果:牛乳飲用増加群(介入により牛乳摂取頻度が増加あるいは維持の群)と牛乳飲用減少群(介入期間中に牛乳摂取頻度が低下、あるいは摂取習慣なしの群)の平均年齢は男女ともに約72歳であった。老研式活動能力指標総合点の平均値は両群、男女ともにほぼ12点であった。血清総コレステロ←ル値の変化に関して、67-74歳では男女ともに牛乳飲用減少群は同水準で推移したのに対して、牛乳飲用増加群の女性では増加傾向を示した。75歳以上では牛乳飲用減少群では減少したのに対して牛乳飲用増加群では同水準で推移しており、この傾向は男女共通していた。抑うつ度尺度(geriatric depression scale :GDS)の変化では、67-74歳では男女両群とも介入期間中にほぼ同水準で推移した。75歳以上においては、男性の牛乳飲用減少群で得点の増加傾向が認められたが有意ではなかった。75歳以上の男性で牛乳飲用増加群に比較し、牛乳飲用減少群から軽度以上の抑うつ傾向を示す者が高率に出現し、この関係は有意であった。
介入前後の血清総コレステロール変化量に対する牛乳飲用習慣の寄与を検証するため、重回帰分析を試行した結果、牛乳摂取頻度を増加あるいは維持することが血清総コレステロールの増加を有意、かつ独立的に促していた。
結論:高齢期は、血清コレステロールの低値が総死亡のリスクを高める。本介入研究の成績は、高齢期の適正な血清総コレステロール水準を維持し、総死亡のリスクを低減させるうえで午乳飲用が有効であることを示している。
血清コレステロールと抑うつ度の負の関係は、より高齢層で鮮明となることが先行研究により示されている。介入期間において75歳以上の男性では牛乳飲用増加群に比較し、牛乳飲用減少群でGDS得点5点以上の軽度以上の抑うつ傾向者の出現率が有意に高かった。
本研究により、牛乳飲用習慣の推進が加齢による血清コレステロールの低下を抑制し、その結果、後期高齢者の抑うつ傾向の予防にも連関しうることが示された。牛乳飲用習慣の推進は、高齢期の余命の伸長に加え、心理的健康指標である抑うつ傾向の予防にも寄与する可能性がある。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021e2i.html

2015年9月18日