1999年
著者:樋口満
所属:国立健康・栄養研究所健康増進部

  • 健康科学
  • 免疫調節・がん
近年、我が国でも高齢者の人口増加に伴い、高齢者の健康保持に関して注目が集まっている。高齢者の健康保持に運動と栄養は重要であり、運動習慣の獲得によりQOLが向上することが明らかになっている。高齢者の栄養摂取は社会経済的影響が強く、一人暮らしや身体に障害をもつ高齢者は、食事が不規則になったり栄養摂取が偏ったりする傾向がみられ、特にタンパク質摂取が不足することが明らかにされている。
一方、高齢者は感染症に罹りやすくしかもワクチン投与を受けていても効きにくい。これは、加齢に伴って免疫機能が低下するためと考えられている。加齢とともに変化する免疫機能は、抗体や補体などの体液性免疫よりも、リンパ球、マクロアァージなどを中心とする細胞性免疫の変化が著しいことが知られている。その中でも、リンパ球の幼若化能の低下、成熟T細胞(CD3+)の数の減少、T細胞のうちへルパーT細胞(CD4+)の割合の増加もしくは維持、またT細胞のうちキラーT細胞(CD8+)の割合の減少、へルパーT細胞のうちThlの割合の減少、Th2の割合の増加、さらにメモリー細胞(CD45RO)の増加、ナイーブ細胞(CD45RA)の減少など、T細胞に関連する免疫機能の変化は、加齢に伴い顕著である。このような加齢に伴うT細胞の変化は、さらにIL-2産生の低下、IL-3.IL-4産生の増加、IL-6産生の増加をもたらすことが報告されている。以上に述べた加齢に伴う免疫機能の低下は、高齢者の栄養状態によってさらに変化することが推測できる。たとえば、開発途上国の低栄養状態での易感染症との関連についての研究では、タンパク質摂取の不足が免疫機能の低下を招くことが明らかにされている。そこで、免疫機総の低下した高齢者にとって良質のタンパク質摂取は、十分に考慮されなくてはならないと考えられる。
特に、牛乳・乳製品は良質なタンパク質栄養品であるが、我が国のそれらの摂取量は極めて低く、北欽のデンマークと比較すると約1/3にすぎない。そこで本研究では、はじめに日本とデンマークの食生活の違いを考慮し、両国の高齢者のタンパク摂取、特に牛乳・乳製品の摂取の比較を行い、その食生活の違いが高齢者の免疫機能にどのような影響を与えているかを検討した。同時に血液採取を行い、血清を凍結保存し、血清サイトカイン濃度の二国間比較をあわせて行った。さらに日本の高齢者と若年者を対象に、加齢に伴う血中サイトカイン産生に関わる免疫機能の変化を検討した。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021ecz.html

2015年9月18日