1998年
著者:田中明
所属:東京医科歯科大学第三内科

  • 健康科学
  • 各ライフステージ

調査・研究の目的

ヒトは1日3回の食事の他に間食する機会も多く、また、糖尿病、動脈硬化性疾患例における脂質の日内変動の検討から、1日の生活時間の大部分(20時間以上)は食後の状態にあることが指摘されている。したがって、動脈硬化のリスクを評価する場合に、従来の空腹時の高脂血症のみでは不十分であり、食後の高脂血症の評価が重要であることは研究者の一致した意見である。
しかし、食後高脂血症を動脈硬化のリスクとして評価しようとする試みは、国内外の多くの研究者によりなされてきたが、その評価方法が様々であるため、お互いの結果を比較、利用することができず、この分野の研究に著しい進歩が見られていないのが現状である。
食後高脂血症を評価するためには、脂肪負荷試験が有効な手段と考えられるが、負荷する脂肪も、卵、各種オイル類、生クリームなど様々で、負荷量も様々、測定する脂質の種類もコレステロール、トリグリセリド、レチニールパルミテイト、脂肪酸など様々で、測定時間も一定しておらず、今後、すべての研究者間に共通した脂肪負荷試験の確立が必要である。共通した脂肪負荷試験の確立は、食後高脂血症の共通した評価を可能にし、臨床レベルでの動脈硬化リスクの評価に有効な手段となることが期待できる。
われわれは、共通の脂肪負荷試験確立のために、缶詰めタイプの乳脂肪(0FTTクリーム)を試作品として用い、その有用性を検討している。
また、動脈硬化のリスクであるレムナントリポ蛋白は食後の変化が著明で、脂肪負荷試験の測定脂質として有用であることは指摘されていたが、その測定方法か溶易ではなく、臨床レベルでの大量検体の処理は困難であった。しかし、われわれは、レムナントリポ蛋白を反映し、簡便に測定可能なレムナント様リポ蛋白(Remnant Like Particles、RLP)を開発し、臨床レベルでの測定を可能にした。動脈硬化リスクにおけるRLPの有用性は国際レベルでも評価されつつある(米国、Framingham Heart Studyの発表<Clinical chemistry,19 98>など)。
われわれは、RLPを脂肪負荷試験の測定脂質として、その有用性を検討している。本研究の目的は、共通の負荷脂肪およびその量、共通の測定脂質および測定時間で実施される脂肪負荷試験を確立するための基礎検討を行うことであるが、具体的には、負荷脂肪として試作された乳脂肪(OFTTクリーム)およびレムナントリポ蛋白を反映する、われわれの開発したレムナント様リポ蛋白(RLP)の測定脂質としての有用性を検討することである。全国共通の脂肪負荷試験が確立すれば、結果の比較検討が可能となり、食後高脂血症の共通の評価ができるようになる。また、臨床レベルでは、空腹時のみの高脂血症の評価よりも、脂肪負荷試験により、糖尿病におけるブドウ糖負荷試験と同様に、潜在的な、より感度の高い動脈硬化リスクの予知手段となることが期待される。
本研究の目的を達成するために、日本全国から9施設の大学と研究会を組織し共同研究をおこなっているが、平成10年度からは、スウェーデンのカロリンスカ研究所、米国のカリフォルニア大学、アラバマ大学、カナダのモントリオール大学との国際共同研究も開始した。

書籍ページURL
https://www.j-milk.jp/report/paper/commission/9fgd1p0000021epa.html

2015年9月18日