2017年
著者:廣田 直子
所属:松本大学大学院 健康科学研究科

  • 食育・教育
  • 学童

研究成果の概要

 本研究は、子どもたちに対する食育を進めるにあたって、調理をサイエンスととらえ、学校とは異なる地域内で実施するキッズ・クッキングによる食育プログラムの構築とその教育効果について検討することを目的とした。
 プログラムの検討に当たっては、子どもたちが主役となって体験する調理実習と調理科学的な視点からの実験を融合させて取り組むものであること、「調理はサイエンス」という視点による学年進行に合わせたキッズ・クッキングの食育プログラムであること、「異学年の子どもたちが参加し、上級学年の子どもたちがリーダーとなるピア・エデュケーション」としてのプログラムであること、子どもたちにとって身近である牛乳・乳製品を題材としたものであることなどを特色とした。
 研究のステップとして第一に、小学生を対象として、牛乳・乳製品の調理特性を活かした題材をとり入れた「おいしい科学~キッズ・クッキング~」の食育プログラム案を作成するとともに、小学校の学習指導要領などをもとにして、家庭科および理科について本研究の題材に関連する事項を収集、整理した。次に、活動成果に関する評価のためのアンケート等の検討を進めた後、プログラムにそってキッズ・クッキングを実施し、プロセス評価と影響評価についてまとめた。なお、本報告では1回目の講座の評価についてまとめている。
 実際のキッズ・クッキングでは、科学のおもしろさに気づいてもらう教材を工夫したほか、実験は白衣、調理はエプロンと分け、観察したことをワークシートに記入するなど、科学の視点から考えるという意識を高める工夫を行った。
 「おいしい科学」をテーマとしたキッズ・クッキングに参加することによって家庭での手伝いや牛乳・乳製品に対する意識の変化があるのかについて検討した結果、家庭での手伝いについては、講座に参加する前から食事の手伝いをしていた子どもは多かったが、キッズ・クッキングの前後比較でわずかではあるが手伝いをする機会が増えている者もいたことから、講座を通して料理づくりへの関心を高めることにはつながったのではないかと考えられた。キッズ・クッキングの講座は、ほとんどの操作を小学生に任せたことで、主体的に取り組む姿が多くみられ、ワークシートでは、「初めてやったけどうまくできた」「今日はひとりでもできた」といった感想もみられ、こうした体験から食事づくりの意欲が高まり、それが家庭での手伝いにおける増加の一因となったのではないかと考えられた。
 牛乳・乳製品の摂取頻度の変化については、大きな変化は見られず、これまで定着した食習慣を変えるためには1回の講座のみでは難しいためと推察された。また、今回の講座での活動は、牛乳・乳製品に対するイメージの変化にはつながらなかった。1回のみの講座であり、講座では実験の原理の説明がほとんどであったことから、牛乳・乳製品に関する知識や興味・関心を高めることには効果があったと考えられるが、牛乳・乳製品に対するイメージの変化や摂取頻度の増加といった行動変容までには至らなかったと推察される。
 事後アンケートの結果から、家庭科、理科の授業を「より好きになった」、「好きになった」と回答した者が多く、今回のキッズ・クッキングは、家庭科、理科の授業への関心を高めるきっかけになった可能性はあると推察された。保護者を対象とした事後アンケートで、全員がキッズ・クッキングへ参加させてよかったと回答し、理由として「料理に興味が出てきた」、「食べ物の変化について興味が出てきた」など、この講座のねらいに関連した理由もあげられており、家庭科や理科の学習に興味・関心を持つことができるような食育の取り組みができたと考えられる一方で、保護者のアンケートにおいて、料理づくりを科学の視点から見るという体験が家庭でいきていると感じた者は少ないという結果であり、今後、さらに「調理はサイエンス」という視点でのプログラムや媒体の検討が必要であると考えられた。
 今回の取組では、小学生を対象とし、地域における自然科学的な視点をとり入れた食育プログラムの具体的な内容について検討することを中心とした。研究の限界点として、対照群を設定した比較検討ができていないこと、小学校学習指導要領における理科の内容と今回設定した牛乳・乳製品の題材との関連を活かした形で指導案を作成することができなかったことなどが挙げられる。
 今後は、今回整理した題材の教材分析結果を活かした指導案を作成し、参加者募集の方法を見直して、ピア・エデュケーターとなる子どもたちの自己効力感や参加した子どもたちの食物摂取状況の調査なども加えて、対照群を設定した検討を加えていきたい。
研究分野
食育、栄養教育

※平成29年度「食と教育」学術研究
キーワード:
小学生食育プログラム料理教室科学的視点

2020年6月19日